血液型検査のサポートBlog

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#077:HLA関連抗原であるBg抗原とその抗体の(はてな?)

 輸血歴又は妊娠歴のある患者検体の抗体スクリーニング又は交差適合試験で1本のみ陽性となり、引き続き実施した不規則抗体同定用パネルとは全て陰性となる場合があります。又は1本のみ陽性となり、どの抗体にも合致しない場合があります。このような反応を呈した際の鉄則は、低温反応性の抗体の持ち越し現象を考慮し、Sal(室温)で抗P1、抗M、抗Lebなどが否定されれば、通常は低頻度抗原に対する抗体を疑うことになりますが、時々Bg関連の抗体が関与している場合があります。ここでは、HLA関連抗原であるBg抗原とその抗体の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 HLA(Human Leukocyte Antigen:ヒト白血球抗原)は、成熟赤血球では基本的には認められませんが、分化の過程で残片が残り一部の個体では抗原性を示すことが知られています。とくに赤血球上に認められるHLA抗原のうち、HLA-A28とHLA-B7が一番強く発現し(正確には断片が残っている)、次いでHLA-B8とHLA-B17と考えられています。HLA-B7は赤血球抗原としてみた場合はBga抗原と呼ばれ、HLA-B17はBgb、HLA-A28は抗Bgcと呼ばれます。つまり、HLA型がB7個体ではBg(a+)となりますが、赤血球上の抗原量にはかなり個体差があり、必ずしも赤血球上に抗原が存在するとは限りません。同様にHLA-B17個体はBg(b+)、HLA-A28個体はBg(c+)となります。また、これらの抗原に対する抗体は、それぞれ抗Bga、抗Bgb、抗Bgcとなります。HLA抗体は妊娠や血小板輸血によっても抗体が産生されるため、赤血球輸血のない患者であってもこのような抗Bg関連の抗体は検出されます(抗HLA-B7=抗Bga)。

 市販品の不規則抗体同定用パネル赤血球の抗原組成表に、時々「HLA+」又は「Bga+」等の表記がある場合がありますが、これは、パネル赤血球のドナーのHLA型に基づいて表記されていることが多いため、赤血球の不規則抗体検査で抗Bgaと同定された血清においても必ずしも陽性になるとは限りません。そこが悩みの種になる要因の一つです。Bg関連抗原にはこのような背景もあり、また赤血球上のBga抗原量についてもよく分かっていないため、300例のHLA-B7個体について抗Bgaを用いて反応性を検討してみました。今回検索に使用した抗BgaはPEG-IATで2+~3+反応するヒト由来血清を用いています。

 検討結果は、HLA-B7個体(300例)において、約5%の個体が赤血球上にBga抗原(B7)が高発現していることが分かりました[SL.1]。1+の反応まで含めると約7%程度となります。これが意味することは、HLA抗体検査で仮に抗B7が検出されたとしても、その血清が赤血球の凝集反応として観察されるのは僅かということです。もともとHLAの検査は赤血球抗体検査のように試験管法ではなく検査方法も異なります。従って、HLA抗体を保有していたとしても赤血球の不規則抗体検査で陽性になることは稀ですが、一部の強い抗体(血清)とBga高発現の赤血球の組み合わせになった場合には凝集が観察される場合があります。その確率が低いため、一見低頻度抗原に対する抗体のように見えてくると言うことになります。抗体特異性を決定するためには、予めBga抗原量が多いと判明している赤血球を用いることがスムーズに解決するポイントとなります[SL.2]。

 また、抗Bgaを同定する際には、2+程度に反応した赤血球を酸処理し、未処理と処理赤血球との反応を観察することです。Bga抗原は酵素(ficin、trypsinなど)や還元剤(DTT/AET)では抗原が破壊されませんが、酸(EDTA-Glycin-HCl)処理で抗原が破壊される性質を有しています。酵素や化学処理で反応性の低下(消失)を確認する場合には、抗体との反応が2+~3+の赤血球を用いるのが基本となります。w+や1+程度に反応する赤血球では、処理後に陰性になったとしても判断が難しくなるからです。凝集強度が2グレード以上低下(4+⇒2+、3+⇒1+、2+⇒0)すれば抗原が破壊されたと判断しやすい為です。

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