多発性骨髄腫は、B細胞系の形質細胞が腫瘍化し、細胞の活性化マーカー(CD38)は強陽性を示すことが知られています。CD38 は内在性膜蛋白で、骨髄腫細胞に著しく発現されています。抗CD38モノクローナル抗体薬は新しい骨髄腫の治療薬として徐々に使用されており、日本では主にダラツムマブ(DARA)が使用されています。最近、イサツキシマブ(抗CD38モノクローナル抗体)も新たな治療薬として承認されました。一方、CD38は赤血球上にも弱く発現しているため、抗CD38を投与された患者では、交差適合試験や抗体同定検査においてすべての赤血球と弱陽性(1+~2+)程度の凝集が観察されます。ここでは、抗CD38の干渉(影響)を低減するDTT処理赤血球使用時の注意点の(はてな?)についてシェアしたいと思います。
基本的には、ダラツムマブもイサツキシマブもCD38分子をターゲットにしたモノクローナル抗体薬なので、投与患者に対する抗体検査の基本的な考え方は既に輸血・細胞治療学会等で推奨されているとおり、DTT(ジチオスレイトール)試薬で赤血球試薬又は交差適合試験に用いるセグメント赤血球を処理する方法で回避出来ます。
これらの薬剤を投与した患者では間接抗グロブリン試験で全ての赤血球と陽性となり、その凝集態度は抗Jra、抗JMH、抗KANNO、抗Ch/RgなどのHTLA(High Titer Low Avidity)抗体のように、2倍連続希釈した血清においても、だらだらと2+程度の凝集が高希釈まで出るのが特徴です。
投与したことがわからない状態で患者血清を検査した際には、自己対照赤血球の反応はw+又は陰性であり、PEG-IATと60分加温-IATがほぼ同等の凝集態度であるため、高頻度抗原に対する抗体を疑ってしまいます。パネル赤血球(同種赤血球)との反応よりも自己対照が弱いため、自己抗体は否定的となります。おそらく多くの人は「あ~~手におえない感じだぁ」と思うことでしょう。従って、投与した情報は検査を進める上で非常に重要であることを理解してください。
DARAを投与したことが分かっていれば、DTT処理した赤血球を用いて検査をすることで大概は解決できますが、落とし穴が潜んでいる場合もあります。抗CD38と反応する赤血球上のCD38分子はDTT処理で破壊し、薬剤の干渉(影響)は回避できますが、そもそもDARA等を投与する患者の血漿(血清)中には、M蛋白やγグロブリン等が通常の人に比べて多量に存在しています。そのような血漿(血清)を用いてPEG等の反応増強剤を添加した間接抗グロブリン試験を実施すれば、間違いなく赤血球抗体以外のγグロブリン成分が検査した赤血球に非特異的に結合し、洗浄操作を加えても赤血球に非特異的に結合した状態になるため、抗ヒトグロブリン試薬を添加すれば、w+~1+程度の凝集が観察されることを忘れてはいけません[SL.1]。この弱陽性反応が出た場合、殆どの人は「DTT処理が悪かった」と考えますが、実はそうではなく、患者血漿(血清)に由来する非特異反応であることの方が多い場合があります。このような反応は、骨髄腫、肝硬変、膠原病、癌、慢性感染症、白血病、リンパ腫などの患者さんでも観察されます。詳細は、#012:PEG-IATが弱陽性の場合の(はてな?)をご覧下さい。
このような患者血漿(血清)に由来する非特異反応を軽減するには、検査の感度を少し下げることが重要です。例えば、PEG-IATではなくLISS-IATを行う、又は血漿(血清)を生理食塩液又はPBSで1.5~2.0倍程度に希釈してPEG-IATを行うことで非特異反応を低減(回避)することが出来ます[SL.2]。
患者血漿(血清)を希釈したら、弱い抗体(低力価)の抗体を見逃すのではないか?と言いたい人もいるでしょう。希釈した検体を用いているワケですから理論的にはその通りです。しかし、LISS-IATと2倍希釈した検体を用いたPEG-IATの検出感度(赤血球への抗体結合量)は実はほぼ同じです。DHTRを防止するために抗体検出感度を上げて弱い抗体を検出することは重要ですが、非特異反応が出ることがある程度想定されている血漿(血清)を検査する場合は、非特異反応を軽減し、はっきり出る抗体(2~3+以上)だけは見逃さないという考えも必要です。さらに同種抗体を保有している可能性(輸血歴、妊娠歴の有無)を考慮しながら総合的に判断する必要があります(こういった非特異反応が想定される患者さんの場合)。せっかくDTT処理した赤血球を調製しても、非特異反応に悩まされて、本来輸血可能な患者さんに輸血を躊躇(断念)することがないように、様々な方法を組み合わせながら赤血球抗体とそれ以外による反応を見極めることが重要です。