血液型検査のサポートBlog

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#074:DTT処理赤血球を用いた抗体同定への活用の(はてな?)

 赤血球膜上の血液型抗原を担う分子構造を大きく分類すると、糖タンパク質、タンパク質、糖脂質(抗原活性は糖鎖)に分類されます。また、抗原分子の中には酵素や還元剤試薬で抗原が破壊される抗原もあります。逆にその性質を活用し、未処理赤血球と処理赤血球の反応性比較から抗体同定を行う場合があります。ここでは、DTT処理赤血球を用いた抗体同定への活用の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 日常的な抗体同定検査では被検者血漿(血清)と不規則抗体同定用パネル赤血球との反応性において、抗原組成表に記された抗原パターンと完全一致するものを「可能性の高い抗体」として同定します。しかし、これはあくまで陽性と陰性がある場合であり、全て陽性反応を示す際には、消去法での絞り込みも出来ません。そのため、すべて陽性となる血漿(血清)の検査を進める際には、酵素や化学処理赤血球の反応性を活用することは必須となります。現在、市販品パネル赤血球の中には、予め酵素(ficin)処理した赤血球とセットで発売されているパネル赤血球もあります。

 日本人から検出される抗体の多くは多型性を示す抗原に対する抗体であり、抗D、抗C、抗E、抗c、抗e、抗Lea、抗Leb、抗M、抗N、抗S、抗Fyb、抗Jka、抗Jkb、抗Dia、抗Xgaなどが該当します(抗Fya、抗Dib、抗Jraは高頻度抗原に対する抗体のため、全て陽性となる)。この中で酵素(ficin)によって抗原が破壊され反応が消失する例は、抗M、抗N、抗S、抗Fya、抗Fyb、抗Xgaです。ficin処理赤血球を併用することでこれらの抗体の同定や複数抗体が存在する場合の鑑別に活用されます。また、DTT試薬は、これまで専門施設以外では、殆ど使用されることはありませんでしたが、近年DARA(ダラツムマブ)投与患者の抗体検査として使用されることが多くなり、保有している施設も多くなりました。今回は、ficin処理赤血球とDTT処理赤血球との反応から、すべて陽性となるような高頻度抗原に対する抗体(日本人から比較的多く検出されるものに限定)について、ある程度絞り込みを行えることをシェアしたいと思います。

SL.1、SL.2]には、酵素及び化学処理による血液型抗原の特徴を示しています。全て陽性反応を示す抗体に遭遇した際のFirstステップは、まずはficin処理赤血球との反応です。ficin処理赤血球との反応と言っても、酵素二段法ではなく、ficin処理赤血球を用いた間接抗グロブリン試験という意味です。未処理赤血球とのIATが3+~4+で、ficin処理赤血球との反応が陰性となる抗体は、抗Fya、抗s、抗JMH、抗KANNO、抗Ch/Rg、抗Geなどを疑う必要があります。逆にficin処理赤血球との反応が未処理赤血球よりも強くなる場合は、抗Dib、抗LW、抗Rh17、抗P、抗Gya、抗Ku、抗Jra、抗Lanなどを疑うべきです。この情報に基づき200mM DTTで処理した赤血球との反応で、抗JMH、抗LW、抗Gya、抗Ku(Kell系抗体)の絞り込みが可能となります。また、ficinやDTT処理赤血球との反応性とともに、凝集の強弱、強さ(凝集が強固?又は脆い?)は抗体を絞り込む際には欠かせない情報となります。抗Jra、抗JMH、抗KANNO、抗Ch/RgなどはHTLA(High titer Low Avidity)の性質を有する抗体です。抗Jra、抗KANNOは女性からの検出率が高い抗体であり、抗JMHは高齢者からの検出が多い抗体です。酵素・化学処理赤血球を使用して全て陽性となる抗体の絞り込みを行う際には、こうした抗体保有者の特徴も踏まえて抗体同定を行うことがスムーズに抗体同定を行う秘訣です。

 

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