血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#069:ABOウラ検査にO型赤血球を追加使用する意義の(はてな?)

 ABO血液型の判定には、「オモテ検査」と「ウラ検査」がありますが、ウラ検査は被検者血漿(血清)中の抗A、抗B(規則抗体)を検出する検査であり、通常、既知のA1型及びB型赤血球を使用し判定しています。以前は、O型赤血球も同時に検査していましたが、抗体スクリーニングを並行して実施する施設においては現在では必要ないと考えられています。ここでは、ABOウラ検査にO型赤血球を追加使用する意義の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 この記事は、ABOウラ検査にO型赤血球を追加使用することを推奨するものではありませんウラ検査にO型赤血球を入れるメリットって何?、そしてO型赤血球を使用する時の注意点(O型赤血球なら何でもいいの?)などを再度確認するための記事です。

 そもそもABOウラ検査に、A1型及びB型赤血球の他にO型赤血球を追加するメリットは、A1型及びB型赤血球と反応している抗体が、抗A又は抗Bであることを確認するためにA及びB抗原がないO型赤血球を同時に検査していました。つまり、A1型及びB型赤血球との反応(凝集)は真の反応(抗A又は抗B)なのか、それともA、B抗原の有無とは無関係に凝集(不規則抗体等による凝集)なのかをABO血液型判定の時点である程度予測しましょう、という考え方です。ABOウラ検査の冷式抗体の影響や予期せぬ反応については、#011:冷式抗体保有時のABOウラ検査の(はてな?)、#028:ABOウラ検査の予期せぬ反応の(はてな?)、#029:抗I、抗HI保有者のABOウラ検査の(はてな?)などの以前アップした記事を参照ください。

 現在、多くの施設の輸血検査環境では血液型判定と同時並行で抗体スクリーニングを実施する施設が多く、あえてO型赤血球を入れる意義は低いと考えられています。また、自動検査機器(ゲル・カラム凝集法など)の導入によって、血液型判定と不規則抗体は別々に実施する仕組みになっているということもあります。従って、現在ウラ検査にO型赤血球をあえて使用している施設は、ウラ検査を試験管法で実施していること、抗体スクリーニングも実施しているが、ABO型判定の段階で血漿(血清)中に強い低温反応性の不規則抗体が存在していないことをチェックする意図で実施していると思います(自分もそういう意図で実施しています)。自動検査機器では低温反応性の抗体を検出しない(しにくい)仕様になっています。逆にABOウラ検査に影響するのは低温反応性の抗体です。従って、ABO型判定の際にO型赤血球を使用することは全く意味の無いことではありません。下に示したのは、ABO型判定(ウラ検査)で余計な反応(予期せぬ反応)が出たためにABO血液型を直ぐに確定出来なかった例です。O型赤血球の追加使用によって解決が早かった例もあります。

 O型赤血球を使用する際の注意点は、不規則抗体の検出には万能ではないことを知っておく必要があります。抗Iや抗HIなどの抗体では、ランダムに選んだO型を使用してもさほど変わりませんが、抗M、抗N、抗P1、抗Lebなどの抗体がある場合には、使用する赤血球の抗原の有無、抗原量によって異なります。従って、特異性のある低温反応性の抗体をO型赤血球でチェックしたいという意図であれば、抗体スクリーニング用の赤血球(I~III)をプールして使用するか、検出したい抗体に特化した抗原陽性赤血球(例えば、M+、P1+など)を使用するのが良いと思います。一方、O型赤血球はあくまで陰性対照(Referenceの意味)で使用したいというのであれば、ランダムのO型を数例プールすれば問題ありません。

 抗体スクリーニングは別個に実施するため、ウラ検査にO型は必要なしという考えは、間違いではありませんが、抗体スクリーニングの検出目的が37℃相からの間接抗グロブリン試験(臨床的意義のある抗体)であることを知っておく必要があります。つまり、ウラ検査のO型の反応(室温)を観察するのとは若干目的が違うということになります(ABOウラ検査の予期せぬ反応を引き起こす原因の多くは無害な抗体による)。最終的には、どの検査段階で何をチェックしたいかを明確にすることが重要であり、全てはABO型を正しく判定するために、ABO亜型精査が必要なのか、それとも不規則抗体同定を行う必要があるかを見極めるための一助ということです。オモテ・ウラ不一致の原因は全て亜型精査を行えば解決するというモノではないということです。

 

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