血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#068:A3型家系で観察されたallelic enhancement phenomenonの(はてな?)

 これまでの記事において、A2アリルを保有する個体の表現型はO遺伝子とヘテロ接合の場合は、A2アリルの元々の性質が反映された表現型(A2型)になりB遺伝子とヘテロ接合の場合、多くはA2B型であるものの、時々A3B型になる場合もあることをシェアしてきました。亜型遺伝子はもう一方に正常なA又はB遺伝子が存在するとO遺伝子との組み合わせの時よりもH抗原への糖付加の競合が生じるために抗原量が減少する、というのが一般的です。しかし、この理屈に合わない表現型が観察される場合があります。ここでは、A3型家系で観察されたallelic enhancement phenomenonの(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 allelic enhancement phenomenonとは、直訳すると対立遺伝子増強現象です。この現象は、ある亜型遺伝子(便宜上、A亜型遺伝子をAvarと記載します)があった場合に、Avar/OよりもAvar/Bの方が、A抗原が増強するというものです。通常の考え方でいくと、B遺伝子が来た方がA抗原はさらに低下するというのが一般的ですが、逆の現象となります。従って、この対立遺伝子増強現象は、親と子の間で血清学的不一致を引き起こす(予期せぬ反応)傾向があります。これまでもいくつかの遺伝子でこの現象の報告があります。例えば、O遺伝子とヘテロの場合は、表現型はO型なのに、B遺伝子とヘテロ接合の場合は、A抗原が弱く反応するようなB(A)もその一つです。このアリルは、Ax03R102)やAel02A110)が知られています。B(A)の詳細は、#009 B(A)血液型の(はてな?)をご覧下さい。また、発端者がAx型で、その父親(本質的にはAB型)は発端者と同じA亜型遺伝子(c.860C>T)とB遺伝子を保有していました。通常であれば、B遺伝子の存在によってさらにA抗原が低下し、AelB型程度までA抗原が低下することが想定されますが、実際の表現型はA3B型でありA抗原の増強が確認されています。他の例では、発端者はAweakB(Aw05/B)で母親の遺伝子型がAw05/Oであることから、母親はA3型程度のA抗原量になることが想定されますが、実際はO型でした。これがallelic enhancementと呼ばれる現象です。

 今回シェアするのは、自分が以前経験したA3型から複数例検出されているA遺伝子の950番目にミスセンス変異のある遺伝子(c.950A>T)の例です。発端者はA3型でした。兄妹と母親の検査を実施したところ、母親は発端者と同じA3遺伝子(c.950A>T)とB遺伝子のヘテロ接合でしたが、抗A試薬による被凝集価は128~256倍であり、どうみてもA3B型ではなくA2B型の判定でした。発端者のA抗原は、抗A試薬と16~32倍程度の被凝集価であることからallelic enhancement現象と考えられる一例でした。

 現在、ABO血液型を始め、多くの血液型判定(精査)に遺伝子検査が導入されています。しかし、ABO血液型においては、一つの表現型から複数の対立遺伝子が報告されております。Bm型、cisAB型などはほぼ表現型と遺伝子タイプが一致するため、遺伝子検査によって血液型(亜型)の決定が可能だと思いますが、それ以外の亜型(A2からAxなど)では同じ亜型遺伝子を保有していても血清学的な反応にバリエーションが生じたり、使用する抗体試薬によっても反応の強さが異なります。また、今回シェアしたような通常とは異なる反応を示す遺伝子も存在します。従って、亜型判定の基本はあくまでも血清学的な反応であり、今まで報告された亜型カテゴリーのどのタイプに近いか(当てはまるか)を決めることが大切です。遺伝子タイプの結果を無理やり当てはめて表現型を決める必要はありません。輸血を前提としている場合は、血清中に存在する抗A及び抗Bの有無で輸血製剤を決定するのは言うまでもありません。

 

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