血液型検査のサポートBlog

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#067:A2B(A3B)型のB抗原量はA1B型よりも通常増加しているの(はてな?)

 A2型及びA2B型は、現在市販されているモノクローナル抗体では通常のA型及びAB型と判定されるため、通常実施している試験管法では抗A試薬との反応が弱いとはなりません。しかし、試験管法よりも感度が低いスライド法などを実施すると抗A試薬との凝集開始時間が通常のA1B型と比べて少し遅く、A抗原量が低下していることを察することが出来ます。注意深く観察すると、実は抗B試薬との反応は強くなっていることに気がつきます。ここでは、A2B(A3B)のB抗原量はA1B型よりも通常増加しているの(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 赤血球上のA抗原及びB抗原は、基質であるH抗原(フコース)にA転移酵素又はB転移酵素の作用によって、Nアセチルガラクトサミン(A抗原)又はガラクトース(B抗原)が付加されて生合成されます。遺伝子型がA/O又はB/Oの場合は、一方の対立遺伝子(O遺伝子)の影響は受けませんが、遺伝子型がA/Bの場合は、A転移酵素とB転移酵素の競合が生じます。つまり、A遺伝子が亜型遺伝子(A活性が低い)の場合は、B転移酵素活性が相対的に強くなり、A/Oの場合よりもA抗原の低下が認められます。この典型例がA2アリル保有しB遺伝子とヘテロ接合した際に生じるA3B型の例です(O遺伝子とのヘテロ接合の場合はA2型となる)。

 通常はABO血液型検査のオモテ検査を実施する際に、抗A又は抗B試薬と弱い反応を呈する方を注視し検査を進めていますが、実はA2B(A3B)型では、一方の抗原が低下しているため、もう一方の抗原は増加傾向にあります。つまり、A2B型やA3B型の場合、A抗原が低下しているのは勿論ですがB抗原は逆に増加しています。この反応は試験管法では分かりませんが、スライド法ではB抗原が増強していることが明瞭となります。[SL.1]には由来の異なるA2B型(A2BとA3Bの中間を含む)の3例のオモテ検査(スライド法)を示しました。着目したいのは、抗Aとの少し弱い凝集ではなく、抗Bとの反応です。通常のA1B型よりも抗Bとの反応が早く、一塊の凝集塊を形成していることが分かります。この反応は、A亜型遺伝子によって生じたA転移酵素よりも通常のB遺伝子から生じたB転移酵素の方がH抗原にガラクトースをより多く付加することで生じる反応です。

 この現象をもう少し数値化するため、120例のA2B(A3B)型検体を用いて赤血球のA抗原及びB抗原をフローサイトメトリー解析し、その平均蛍光強度(MFI値)を用いて比較してみました。通常のA1B型のB抗原量のMFI値を便宜上100%とし、A2B~A3B型のB抗原量がどの程度増加しているかを調べました。100%以下の場合は、B抗原は通常のA1B型よりも少ない、150~200%以上であれば顕著にB抗原が増加しているという意味になります。また、A抗原量が少ない検体ほどB抗原量が増加する可能性があるため、抗A試薬での被凝集価が16倍(9例)、32倍(8例)、64倍(42例)、128倍(29例)、256倍(32例)に分けて検討を行いました。

SL.2]が結果となります。各グループの平均値でB抗原量を表しました。赤血球のA抗原が低下(被凝集価256倍⇒16倍)するに伴い、B抗原量は増加傾向でした。A2B型やA3B型の場合は、B抗原量が通常のA1B型に比べて200~300%という結果になりましたが、あくまでMFI値による比較のため、抗B試薬でB抗原の被凝集価測定を行っても、せいぜい1~2管程度の違いにしかなりません。但し、間違いなくB抗原量が増加していることは確認できました。

 ABOオモテ検査でスライド法を実施する主たる目的は凝集開始時間や部分凝集の観察ですが、抗Bとの凝集開始時間が早いことに気がつけば、A抗原が減少している可能性を推測することが出来ます。このヒントから次にドリコスレクチンとの反応を観察したり、抗Aによる被凝集価測定を行うことになります。亜型精査や結果の解釈をスムーズに進めるためには、血清学的な特徴を活用することが重要です。

 

 

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