血液型検査のサポートBlog

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#052:凝集の強弱が特徴のKnops系抗体の(はてな?)

Knops(ノップス)血液型は、ISBT(国際輸血学会)で22番目の血液型システム(ISBT022)であり、9つの抗原が存在します。Knops抗原を担う分子は、補体レセプター1(CR1:complement receptor 1)に存在します。ここでは、凝集の強弱が特徴のKnops系抗体の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

  Knops血液型に属する抗原のうち、日本人では、Kna、McCa、Sl1、Sl3、Yka、KCAMが高頻度抗原であり、Knb、McCb、Sl2が低頻度抗原と考えられています。しかし、最近の遺伝子タイピングによる解析によって、Ykaの日本人の抗原頻度は88%程度であることが分かりました。通常、高頻度抗原とは99%以上の抗原頻度の場合に使用されますが、便宜上高頻度抗原として扱われています。日本人から検出されているKnops関連抗体の殆どが抗Ykaです。これは、抗原頻度が88%程度であり、陰性者が10%程度いることを考えると納得できます。

 抗Knops系抗体の特徴は、①輸血又は妊娠による同種免疫で産生される抗体であること、②抗体は間接抗グロブリン試験で検出されること、③HTLAの性質を有し、凝集は脆く弱いこと、④LISS-IAT、PEG-IATと60分加温-IATの強さにあまり差が無いこと、⑤個々の赤血球で抗原量にばらつきがあるため、抗体の反応には強弱(w+~4+)があること、⑥抗原陽性の赤血球で吸着操作を行ってもうまく吸着されないこと、⑦ficin処理赤血球との反応は低下するが陰性にならないこと(抗体が弱い場合は陰性になる)、⑧トリプシン処理赤血球で陰性になることが特徴です。

 Knops抗原を担うCR1は、赤血球や食細胞に発現しているレセプターで、C3bやC4bと結合します。血清中の免疫複合物は、赤血球上のCR1に結合し脾臓へ運ばれて処理されるメカニズムとなっています。赤血球1個あたりのCR1の数は20~800とばらつきがあるため、抗Knop関連抗体はCR1分子が少ない赤血球とは見かけ上、陰性となり、CR1分子が多い赤血球とは3+の反応を示します。凝集に強弱があるものの、既知の血液型抗原に対する抗体とは合致せずに、同定不能に陥りやすい抗体の一つです。赤血球のCR1の数が200以上あれば抗Knops系の抗体と間接抗グロブリン試験で陽性を示すと考えられていますが、200分子以下の赤血球では陰性となります。また、古い赤血球においてもCR1が減少します。従って、陰性の反応が真の陰性かどうかの判断が難しくなります。

 抗体同定時には、このようなポイントを押さえて比較的強く反応した赤血球を数例選び、その赤血球を酵素及び化学処理し、未処理赤血球と処理赤血球との反応性から抗体を絞り込んでいきます。不規則抗体同定用パネル赤血球との反応を観察すると、w+~3+、4+までのバリエーションに富んだ反応が観察されることが一般的であるため、最初は複数の抗体の混在が疑われます。しかし、HTLAの性質や酵素処理赤血球(ficin、trypsinなど)の反応性から、主な血液型抗原に対する抗体ではないことが推測されます[SL.1]。凝集の強弱が著しいことから、高頻度抗原に対する単一の抗体と仮定した際には、抗Chや抗Rgなども頭の片隅に置きながら検査を進めることになります。最終的には、予め準備してあるCR1+W及びCR1+Sの赤血球数例との反応を観察し、抗Knops系の抗体であることを同定します[SL.2]。勿論、最終的にはKna、McCa、Yka抗原が陰性の赤血球との反応で決定します。

 個々の赤血球間で抗原量に差がある場合、既知の抗体で被検者の赤血球抗原を調べることはあまり意味がありません。つまり、抗Ykaや抗Ch、抗Rgが疑われた場合、抗原側からアプローチすることは通常ありません。その理由は赤血球抗原が少ない赤血球と陰性の赤血球を正確に見分ける程優れた抗体がないためです。例えば、抗Eが検出された場合は被検者のE抗原が陰性であることを市販品抗体で調べます。また、主要抗原を調べて陰性の抗原があれば、その情報から抗体を保有している可能性を考慮して検査を進めることもあります。これらは抗原量に差がなく特異抗体で区別が明瞭であるため、このようなアプローチができますが、KnopsやCh/Rgの場合は抗原側からのアプローチが難しいため、抗体の性質のみで特異性を決定していくことになります。このあたりは同定が難しい抗体といわれる由縁かもしれません。

 最後に、抗Knops系の抗体は、臨床的意義が低いことから、主な血液型抗原に対する抗体の存在が否定されれば輸血用血液はランダムとなります。

 

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