血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#038:Jr(a-)型及びJr(a+w)型の遺伝子背景の(はてな?)

 赤血球膜上の高頻度抗原であるJra抗原はABCG2遺伝子によってコードされています。ABCG2遺伝子は父親と母親から1つずつ遺伝子を受け継ぎますが、ナル型遺伝子のホモ接合の場合にJr(a-)型の表現型(まれな血液型)になります。従って、両親の一方からJr(a+)型の遺伝子を受け継げばヘテロ接合のJr(a+)型になり、抗原量は通常のJr(a+)型と比べ減少しています。ここでは、Jr(a-)型及びJr(a+w)型の遺伝子背景の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 日本人から検出された357例のJr(a-)の遺伝子を調べたところ、76.5%はABCG2遺伝子の376番塩基がシトシン(C)からチミン(T)に変異したABCG2遺伝子のナルアリル(c.376C>T)のホモ接合型でした。このアリルは、ISBT(国際輸血学会)では、ABCG2*01N.01というアリル名になっています。この変異によって、126番目のアミノ酸(Gln:グルタミン)をコードするコドンが終止コドン(p.Gln126X)となるため、それ以降のタンパクが合成されません。日本人から検出されるJr(a-)型では、このアリルの保有率が高く、ホモ接合によるJr(a-)型が76%前後で、残りはABCG2*01N.01と他のナルアリルとの組み合わせによるJr(a-)型となっています。c.376C/Cの4例のみABCG2*01N.01以外のナルアリルの組み合わせによるJr(a-)型であり、これは全体の1%程度です[SL.1]。従って、血清学の判定が前提となりますがABCG2遺伝子解析でc.376T/Tと判明すればJr(a-)型に間違いないということになります。一方、c.376C/Tの場合には、Jr(a+)型とJr(a-)型が考えられるため、血清学(抗Jraとの反応)による最終判定が必要になります。仮に血清学で陰性の場合にはABCG2*01N.01(c.376C>T)と他のナルアリルの組み合わせということが推察されるということになります。抗Jraは凝集態度が弱い特徴があるため、血清学では判定が難しい場合もあります。また、直近に輸血歴のある場合には血液型の確定ができません。このような際に遺伝子解析は血清学の一助として現在活用されています。

 また、既知の抗Jraを用いて、被検検体のJra抗原を調べる際、時々非常に弱い反応を示す場合があります。ランダムに選んだ赤血球との反応を観察した際にも同じようなことが起きます。とくに同定された抗Jraの抗体価を調べる際、使用した赤血球によって抗体価が異なるということもあります。そのため、これまではJraは個体差がある抗原の一つとして認識されてきました。しかし、Jra抗原をコードする遺伝子がABCG2遺伝子と判明後、様々な遺伝子変異が確認され、遺伝子変異とJra抗原量に関する報告がされています。それに基づき検討した結果、ABCG2遺伝子の421番に塩基置換(C>A)があると、Jra抗原量が低下することが分かりました。この遺伝子変異はナルアリルではなく、抗原量の減少に関与する遺伝子変異です。[SL.2]には、ABCG2遺伝子の421番に塩基置換を有する場合の抗原量を示しています。376番塩基の変異(c.376C>T)はナルアリルのため、ヘテロ接合(c.376C/T)の場合は抗原量が半分程度になります。それに加えて421番塩基の変異(c.421C>A)があると、さらに抗原量が減少することが分かりました。また、このc.421C>Aの変異は、日本人では約半数が保有しています。我々がランダムに448例のJr(a+)型検体を調べた結果では、約4割は通常のJra抗原量でしたが、その他の約4割は75%程度の抗原量であり、残りの1割は60%程度の抗原量という結果を得ています。Jra抗原には個体差があるというのは、実は遺伝子背景によるものでした。

 以上の結果を踏まえて、抗Jra抗体価を測定する場合には複数本(最低3本以上)のJr(a+)型赤血球をプールして使用することが望ましいと考えます。また、抗体価を測定する機会が多いのは妊婦の場合であり、経時的変化を観察する場合が殆どです。その際には、前回採血検体(冷凍保存を解凍して使用)などを一緒に検査(抗体価測定)することで、使用する赤血球抗原量のばらつきによる抗体価の変動を解釈する一助になります。

 

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