血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#037:JR血液型が確立されるまでの(はてな?)

 Jra抗原は赤血球膜上に存在する高頻度抗原であり、Jr(a-)型個体はまれな血液型です。日本人から検出される高頻度抗原に対する抗体の中で、抗Jraは6割程度を占めるメジャーな抗体ですが、10年前まではJra抗原を担うタンパクやその原因遺伝子も未解明でした。ここではJR血液型が確立されるまでの(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 1970年、StroupとMacllroyは未同定の高頻度抗原に対する同種抗体と抗体保有者の赤血球(Fujikawa、Tamura、Tad、Sorza、Powell、Jacobs)が互いに適合することを報告し、抗原をJraと命名しました。抗原名は、抗体保有者の1人であったRose Jacobsに由来します(Juniorの略称ではない*)。1990年、国際輸血学会(ISBT)の血液型リストに高頻度抗原(901シリーズ:901005)として分類されました。

 抗Jraによる溶血性輸血副作用は、症例によって無症状から中程度まで様々ですが、現時点では抗Jraによる溶血性副作用の有無を予測できないため、抗Jra保有者にはJr(a-)型の赤血球製剤を選択することが推奨されています。また、近年では、輸血よりも母児不適合妊娠の際に、児が胎児貧血を呈し重篤な胎児水腫の例も報告されています。従って、輸血よりも妊婦で危険な抗体であるという認識になってきました。

 Jr(a-)型は、他民族に比べてアジア人、とくに日本人に多く検出されています。これまでの頻度調査報告をまとめると、最新のデータでは、Jr(a-)型の検出頻度は0.06%(398,030例中に238例)で、およそ1,700人に1人程度と推察されます。Jr(a-)型の頻度に男女差はありません。なお、北ヨーロッパ系白人、アラブ人、メキシコ人、ベトナム人に単発例のJr(a-)が報告されていいます。

 JR血液型の責任遺伝子の解明・・・2012年、フランスのグループは主に免疫化学的手法により、カナダのグループはhomozygote mappingと呼ばれる手法を用いて、ABCG2がJra抗原を担うことを明らかにしました。つまり、ABCG2をコードする遺伝子=Jra抗原を担う責任遺伝子ということになります。これを受けて、ISBTはカンクン(メキシコ)で開催されたISBTの会合で、JR血液型は32番目の血液型システム(ISBT032)として血液型システムに組み入れられました。

ABC輸送体とは・・・ATP結合カセット輸送体(ATP-binding cassette Transporters)の略称であり、ABC輸送体は、AからGまで7つのサブファミリーに分類されています。細菌から酵母、植物、哺乳類に至る広い生物種に存在し、物質輸送に係わる蛋白質です。生体膜を通して様々な基質を細胞の内から外へ、外から内への輸送に関与しています。とくにABCG2は尿酸輸送に関与し、以前からABCG2の遺伝子変異と尿酸輸送について研究がされていました。

 ABCG2に関する研究報告として、ABCG2(BCRP:breast cancer resistance protein)は、抗がん剤耐性を示したヒト乳がん細胞から発見されたトランスポーターであり、ABCG2は尿酸輸送を担う蛋白質として報告されています。血清尿酸値とABCG2遺伝子多型の関連性を解析した報告結果では、Q141K(c.421C/A)では血清尿酸値が上昇していた報告があります。Q126X(c.376C>T)とQ141K(c.421C>A)の組合せでは尿酸輸送活性が1/4と推定されています。つまり、ABCG2蛋白が減少している個体では尿酸排泄が悪くなるということです。

 JR血液型の原因遺伝子がABCG2と判明後、各国でJr(a-)の遺伝子解析が進みました。その結果、我が国でもJr(a-)型から多数の遺伝子変異が報告されています。また、Jra抗原量の減少や増加に関わる遺伝子も報告されています。その中で特に重要な遺伝子変異として、ABCG2遺伝子の376番目の塩基がC(シトシン)からT(チミン)に置換(c.376C>T)によって、126番目のアミノ酸(Gln:グルタミン)をコードするコドンが終止コドン(p.Gln126X)となるナンセンス変異を有するABCG2-nullアリルのホモ接合型が、Jr(a-)型の70~75%程度を占めています。また、c.376C>T(p.Gln126X)と別のナルアリルとの組み合わせでJr(a-)の20~25%を占めています。従って、日本人においては、c.376C>T(p.Gln126X)の有無(ホモ・ヘテロ)を調べる遺伝子検査は、血清学検査の一助として有用性が高いと言えます(遺伝子解析の詳細は、今後の記事でシェアします)。

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