血液型検査のサポートBlog

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#036:自己抗体によるDAT陽性赤血球の体内破壊の(はてな?)

 これまで、#30から#35の記事に抗赤血球自己抗体(以下、自己抗体)の性状、自己抗体の血液型特異性、同種抗体の混在を調べる吸着方法、DAT陽性のEA(酸)処理及び単球貪食試験による自己抗体の臨床的意義についてシェアしてきました。ここでは、最終として自己抗体によるDAT陽性赤血球の体内破壊についてシェアしたいと思います。

 同種抗体と自己抗体の違いは、自己赤血球と反応するか否かという点が大きな相違点となります。つまり、同種抗体は抗体価が上昇しても自己赤血球に結合することはなく、輸血した対応抗原陽性の赤血球とのみ反応し輸血した赤血球を破壊します。従って、同種抗体の場合は、特異性と抗体価は臨床的意義を評価する判断材料となります。

一方、自己抗体は抗体価の上昇に伴い、次々と自己赤血球へ結合するため、一定量の自己抗体が自己赤血球に感作(結合)した後に徐々に血漿(血清)中の自己抗体価が上昇します。しかし、同種抗体の様にどんどん上昇することはありません(自己赤血球に結合するため)。また、自己抗体保有者へランダムの血液を輸血した場合、輸血された赤血球に自己抗体が一定量感作(結合)しますが、体内を循環している自己赤血球(DAT陽性)の方が圧倒的に自己抗体が感作(結合)していることになります[SL.1]。従って、血漿(血清)中の抗体価で臨床的意義(危険度)を判断できるのは同種抗体のみであり、自己抗体の場合は血漿(血清)中の抗体価はさほど有用ではないということになります。むしろ、自己赤血球に感作(結合)している抗体の種類(IgG、IgM、IgAなど)や補体の感作及び自己抗体感作量などを調べる方が体内のDAT陽性赤血球の寿命を把握する上では重要となります。

 DAT陽性赤血球をそのまま用いて単球貪食試験を実施すると、赤血球抗体解離液の抗体価が概ね64倍以上のDAT陽性赤血球は有意に貪食率が高いことが分かっています。これは、試験管法でDATを行うと4+の反応強度になります。逆を言えば、1+、2+程度のDAT陽性赤血球では、貪食率はさほど高くならない(破壊されない)ということです。稀な例ですがDAT陰性AIHAなどの報告もありますので、全てが当てはまる訳ではありません。また、IgGの結合量が少ない場合でも、補体が結合している赤血球では貪食率が上昇します。これは、マクロファージはIgGレセプターとともに補体レセプターを有していることから、補体が結合した赤血球では有意に貪食されるということになります。

 検討例として、AIHA(自己免疫性溶血性貧血)患者群と非AIHA患者群のDAT陽性の原因について検討した結果を[SL.2]に示しています。これは全てFCMを用いた方法で赤血球に結合している抗体等を解析しています(試験管法では感度が低いため詳細に分からないため)。特徴的なのは、AIHA群ではIgG+IgM+C3が赤血球に結合しているDAT陽性例が半数以上あり、非AIHA群よりも顕著に高くなっていることです。IgM性自己抗体が赤血球に感作(結合)することで、引き続き補体が結合するため、少ない抗体感作量でも貪食されやすいということになります。従って、自己抗体検査(血清側)を行う際には、IgG性の自己抗体に混在する37℃反応性のIgM性抗体の存在を見極めることも溶血の予測には役立ちます。また、血漿(血清)側の自己抗体の性状や抗体価と平行して赤血球に結合している抗体の種類や赤血球解離液(抗体価)を調べることは、生体内のDAT陽性赤血球の溶血予測には有用であるということになります。

 

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