血液型検査のサポートBlog

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#035:単球貪食試験による自己抗体評価の(はてな?)

 温式抗赤血球自己抗体(以下、自己抗体)は、自己赤血球を含む全ての赤血球を一様に凝集するため、パネル赤血球との反応性だけでは自己抗体の臨床的意義(輸血した血液の生体内での溶血)を予測することは困難です。ここでは、単球貪食試験による自己抗体評価の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

  抗A、抗B以外の主要な血液型抗原に対する抗体が感作(結合)した抗体感作赤血球の生体内での破壊メカニズム(血管外溶血)は、主に脾臓でのマクロファージ等の食細胞による貪食と考えられています。生体内での反応をin vitroの実験系で予測するため、抗体感作赤血球と末梢血液から単離した単球をスライドガラス上で反応させて貪食能を測定するmonocyte monolayer assay(MMA)が以前から用いられています。しかし、この方法は、スライドガラス上で抗体感作赤血球が単球に貪食されていることを顕微鏡下で観察するため熟練の技術と経験が必要であり、客観性に乏しい一面もあります。最近では、フローサイトメトリーを用いた方法で単球貪食試験(Flow cytometric phagocytosis Assay)も行われています。FCMを用いることで2,000個以上の単球を容易に解析できることがメリットの一つです。この方法の概要については、下の概要図をご覧下さい。

 そもそも、自己抗体は全ての赤血球と反応するpan-reactiveな自己抗体が殆どであり、時々、Rh系の特異性を示す自己抗体が混在していることがあること、多くの検体ではpan-reactiveな自己抗体の方が抗体価は高いことを#30、#31の記事でシェアしたところです。今回は、Rhの特異性を示す自己抗体が混在した場合、同種抗体の対応のように対応抗原が陰性の血液を選択する必要性について考えてみました。つまり、被検者がR1R2(D+C+E+c+e+)型で、抗C(抗e)自己抗体+pan-reactiveな自己抗体が存在した場合、輸血用血液製剤の選択は、①ランダム血液で対応する、②C-(e-)の血液を選択する、のどちらを選択するか?ということです。

 この実験を行うにあたり、2つの点に着目しました。pan-reactiveな自己抗体の方が抗体価が高い場合(pan>Rh-auto)とRh系の特異性を示す自己抗体の方が抗体価が高い場合(pan<Rh-auto)を比較しました。また、自己抗体による貪食率が高くなるのはどの程度の抗体価の場合かを観察しました。あくまでこの実験は、血清中に自己抗体が存在し、赤血球輸血を行った際の影響について検討したものです。体内に既に存在しているDAT陽性赤血球の破壊については考慮していません。

 この方法は、FCMを用いた貪食試験で実施しています。陽性(臨床的意義あり)と判断するカットオフ値は、暫定的に60%以上の貪食率の場合としています。[SL.1]はpan-reactiveな自己抗体の方が抗体価が高い場合の例(33例の一部)、[SL.2]はRh系の特異性を示す自己抗体の方が抗体価が高い例(12例の一部)を示しています。

Rh-autoというのは、Rh系の特異性を示す自己抗体という意味です。例えば、抗D+panの場合、Rh-autoに対して陽性とは、D陽性赤血球に感作後に貪食させたという意味で、Rh-autoに対して陰性とは、D陰性赤血球に感作後に貪食させたという意味です。SL.1]では、pan-reactiveな自己抗体の方が抗体価が高いため、感作された赤血球の表現型による貪食率の違いは殆ど観察されません。一方、[SL.2]の方は、Rhの特異性を示す自己抗体の方が抗体価が高いため、抗原陽性の赤血球に感作した場合は貪食率は高くなりました。

 これらの結果から、自己抗体が間接抗グロブリン法(LISS-IAT又は60分加温-IAT)で32倍以下では特異性があっても、その特異性が自己抗体であれば問題視する必要性は低いと考えられます。一方、自己抗体価が64倍以上で、Rh系の特異性がはっきり出るような検体では、対応抗原が陽性の赤血球の方が貪食率は確実に高くなります。つまり、単球に貪食される確率が高くなります(血管外溶血の原因になる可能性がある)。従って、特異性に対して抗原陰性の赤血球の方が良いと考えます。また、AIHAなど既に溶血所見がある患者の場合は、抗体価が低くても特異性を考慮した方が良い場合もあります。

 いずれにしても、抗体の臨床的意義は、その特異性も重要ですが、抗体価が高いということが臨床的意義(赤血球を破壊するか否か)の重要なファクターであるということになります。自己抗体のみで同種抗体の混在がない場合は、自己抗体価が32倍程度以下であれば特異性を気にする必要はない、32倍以上の抗体価でRh系の特異性がはっきりしている場合は、陰性血の対応が望ましい、これが私の結論です。

 

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