直接抗グロブリン試験(以下、DAT)が陽性になる原因は様々ですが、抗赤血球自己抗体(以下、自己抗体)が感作した場合もDAT陽性となります。DAT陽性のままでは、間接抗グロブリン試験で判定する血液型タイピングができません。また、自己赤血球で自己抗体を吸着除去する際にもDATを弱陽性又は陰性化する必要があります。ここでは、DAT陽性赤血球のEA(酸)処理の(はてな?)についてシェアしたいと思います。
熱解離は試験管に被検赤血球沈渣と等量の生理食塩液(PBS又はBSA-PBS)を加えて、56℃の恒温水槽で10分程度静置し、主に熱によって抗原-抗体を解離される方法です。これは主に糖鎖抗原(ABH、I、P、P1など)に対する抗体(IgM性)の抗体解離の場合に用いられます。例えば、高力価の抗I(寒冷凝集素)が血清中に存在する場合、自己赤血球のI抗原は陽性であるため、自己赤血球にIgM性の抗Iが感作(結合)し、EDTA採血した血液が凝固血のような状態になります。そのような検体から赤血球浮遊液を作成し、ABO血液型判定すると、オモテ検査で(本来陰性になるところが)1+程度の非特異的な凝集や、DATが弱陽性(PBS対照も弱陽性)を呈する場合があります。これは、赤血球表面にIgM性の抗体が感作したためにζ電位が低下し、隣り合う赤血球同士の自発凝集が起こっているためです。このような場合は、通常37℃に温めた生理食塩液で洗浄することが推奨されていますが、高力価の抗体が感作した場合には、洗浄程度では赤血球から抗体が外れません。そのような場合は、もう少し温度を上げることで感作している抗体を外すことができます。これはあくまで解離液を得ることが目的ではなく、抗体を解離した赤血球を得るため(タイピングや自己吸着に用いる)に行うテクニックです。
一方、EA処理は主にIgG性の抗体解離に優れています。主に自己抗体が感作し、DATが3+~4+の赤血球では、タイピングにも影響するため、一旦、DATをw+~陰性化する必要の場合に使用されます。EAはpHを下げて抗原-抗体を解離される方法であり、添付文書に記載された時間は守らなければなりません。時間が超過すると、赤血球は茶色になり、試験管底にペースト状になります(一部変性して溶血)。また、AIHA等の患者さんの場合は、抗体感作赤血球を酸性側にすると突然溶血する場合もありますので、処理する場合は、赤血球の変色にも注意し、変色してきた場合は規定の時間内でもアルカリ側の緩衝液であるトリス等を加えてpHを中性に戻すことが重要です。EA処理した赤血球は、血液型のタイピングに使用できますが、KellやBga抗原などは、酸処理で抗原が破壊されるため、これらの血液型を調べることはできません。Rh、Duffy、Kidd、Diego、MNSなどの血液型タイピングには影響はありません。
DATが1+~2+程度で、血清中の自己抗体の強さがLISS-IAT又は60分加温-IATで2+~3+程度の場合は、被検赤血球をEA処理すること無く、そのまま使用してもPEG吸着法であれば、十分血清中の抗体は吸着除去されます。DATが3+以上で血清中に比較的強い抗体があり、それを吸着したい場合に、EA処理などで一旦自己赤血球に感作(結合)している抗体を解離してから、自己吸着を行う方が確実であるということです。[SL.1]には、参考として自己抗体によるDAT陽性赤血球をEA処理とZZAP処理し、処理後の赤血球表面に残っている自己抗体をグラフにしたものです。EA処理の方が確実に抗体を解離する方法として優れています。
また[SL.2]には、DATが1+程度の赤血球を用いて、自己抗体の自己吸着を行った例を記載しています。DATが強陽性の場合は、血清中の自己抗体をもれなく吸着することが難しく、吸着上清に吸着しきれなかった自己抗体がw+~1+として残ってしまう例を記載しています。被検者赤血球をEA処理し、その後自己吸着するのが教科書的な記載ですが、DATが弱陽性で時間的余裕がない時には、DAT弱陽性赤血球に被検者血清とPEGを加えて自己抗体を吸着することで、その上清を用いて同種抗体の確認がわずか30~40分程度で可能ということになります。DATが1~2+程度であれば、血清中の自己抗体を十分吸着できることを知っておくことは緊急時に役に立つと思います。