血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#027:ABOオモテ検査の予期せぬ反応の(はてな?)

 ABO血液型の判定は、既知の抗A及び抗B試薬を用いて赤血球側の抗原を調べる「オモテ検査」とA1型及びB型赤血球試薬を用いて被検者血漿(血清)中の規則抗体である抗A、抗Bの有無を調べる「ウラ検査」があります。両者が一致した場合にのみABO血液型が確定されます。ここでは、ABOオモテ検査で起こる予期せぬ反応についてシェアしたいと思います。

 オモテ検査で遭遇する予期せぬ反応とは、①抗A又は抗Bとの反応が弱い(亜型)、②血液型キメラ又はO型異型適合血液の輸血による典型的な部分凝集反応、④疾患による抗原減弱例にみられる部分凝集反応(強弱あり)、⑤冷式自己抗体感作による非特異反応などがあります。まれに⑥Acquired B(後天性B)などもありますが、現行の市販品抗体では気が付かないことが多いと思います。

抗原量が少ないA3型、B3型のABO亜型では抗A又は抗B試薬と反応が弱くなり背景にも濁りを生じます。現在使用しているモノクローナル抗体(市販品)では、抗体価が高いため、A2型は通常のA1型と同様にA型判定され、A3型、B3型レベルの抗原量においても試験管法では3+程度反応する場合もあります。反応が通常よりも弱いことに違和感がありスライド法を実施し、凝集開始時間の遅延と抗原量が減少していることに気が付くことも少なくありません。また、A3型、B3型といっても明確な定義がなく(部分凝集が観察されるというのが一つの目安)、抗原量には幅があるため、1+程度の凝集を示すものまで様々です。また、Ael、Bm、Belなどの亜型は抗A又は抗Bとは直接凝集を呈さないため、オモテ検査はO型と判定されます(A1BはA型と判定される)。

 典型的な部分凝集とは、一塊の凝集に反応しない赤血球が存在し、反応しない赤血球は濁りを生じるものです。血液型キメラは、2つの異なる血液型が混合されている状態であり、通常の表現型であるA1型、B型、O型、AB型が2つ組み合わさるため、亜型のように凝集開始時間が遅延することなく、しっかりした凝集塊と非凝集部が観察されます。背景の濁りを見分けるには試験管法よりもスライド法の方が最適です。血液型キメラは先天的であり、生まれた時からこのような反応を示します。一方、同じような反応をするO型異型適合血液の輸血の場合は、3ヶ月以上経過すると、輸血した血液は体内からなくなるため本来の血液型に戻ります。また、血液疾患等による抗原減弱は患者さんを検査する医療機関では一番多く遭遇する事例です。抗A及び抗Bとの凝集態度も様々で、亜型様に見えるものから血液型キメラ様に見えるものまで様々です。時期によっても異なるため、経過観察も重要です。とくにAMLやMDSの血液疾患では、ABO遺伝子の転写異常に関与することが最近証明されました。通常、遺伝情報は、DNA→(転写)→mRNA→翻訳→タンパク質という流れで進みます。ABO血液型の場合は、最終のタンパク質はA転移酵素やB転移酵素ということになります。転写異常が起こると、mRNA量が減少するため、最終的なタンパク質(A転移酵素、B転移酵素)が減少します。その結果、骨髄で赤血球にA抗原又はB抗原の付加が不完全になるため、通常の抗原量よりも少ない抗原量の赤血球が抹消血に出てきます。A3程度の抗原量からO型に近い抗原量のものまで様々です。これが疾患による抗原減弱例のメカニズムの代表例です。このような例では病気が寛解すれば本来の血液型に戻ります。ABO亜型との鑑別は、血漿中の転移酵素活性の有無が目安になります。A3、Ax、B3、Bxなどの亜型では通常ABO遺伝子のエキソン7内に塩基置換があり、糖転移酵素活性が認められません。一方、疾患による抗原減弱例では通常よりも活性が低下することがあっても検出できます。また、唾液中の型物質も亜型では低下しますが、減弱例では通常の表現型と変わらないため、これらが鑑別点となります。

 血漿(血清)中に高力価の冷式自己抗体(主に抗I)が存在する場合、自己赤血球にも感作(結合)するため、赤血球上のζ電位が低下し、抗A及び抗Bに関係なく弱陽性を示すことがあります。例えば、O型がAB型に見えたり、A型が抗Bと1+~2+に反応することがあります。これを鑑別するには、抗A又は抗Bの代わりに試験管にPBS(又は生食)1滴と被検者赤血球浮遊液を1滴加えてオモテ検査の要領で遠心判定しましょう。もしも凝集が認められれば、抗A又は抗Bとは無関係に凝集することを証明したことになります。このような赤血球の血液型を調べるには、加温したPBS又は生理食塩水で赤血球を洗浄し、感作したIgM性の冷式自己抗体を解離した赤血球を用いて血液型検査を行う必要があります。

 

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