血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#005:爪を用いたABO型判定の(はてな?)

 ABO血液型には種々の亜型が存在し、血清学的で詳細なカテゴリーを分類するには、様々な精査を行う必要があります。また、術者の経験、技術及び知識が少なからず必要になってきます。そこで、ここでは爪を用いたABO型判定についてシェアしたいと思います。

 抗A又は抗B試薬と直接凝集反応を呈さない亜型(Bm、A1Bm、Ael、Belなど)の場合、吸着解離試験を行い赤血球上に存在する微量抗原の有無を調べる必要がありますが、使用する試薬の問題もあり、予想した結果が得られない場合や非特異反応との区別が出来ず悩む場合もあります。被検者本来のABO型を調べるには赤血球以外の試料として唾液がよく使われますが、非分泌型個体では型物質を検出できない場合もあります。

 従来、吸着解離試験に用いる抗A、抗B試薬は、ヒト由来のポリクローナル抗体によって実施されていました。しかし、現在ではポリクローナル抗体が入手出来ません(市販されていないため)。現在市販されているモノクローナル抗体は、通常の血液型判定において問題となることはありませんが、亜型赤血球との反応性は各社で多少異なり、吸着解離試験や糖転移酵素活性を調べる検査には不向きな試薬もあります。また、従来亜型の分類はポリクローナル抗体(抗A、抗B)試薬を用いて赤血球以外の体細胞由来試料(唾液)の型物質の有無や量(亜型では少ない)を調べ、その結果に基づきカテゴリー分類されてきた背景があります。そして現在でも教科書の記載は踏襲されたままであるため、現在使用しているモノクローナル抗体との反応性をそのまま当てはめても合致しないのは当然であることをご理解下さい。一つの例としては、従来のポリクローナル抗Aでは、A2~A3型の中間で凝集開始時間の遅延や部分凝集が観察されましたが、現在のモノクローナル抗体では、A3型においても、かなり抗原量が少ないものしか気が付かなくなりました。輸血を前提とした検査においては問題になることはなく、むしろ迷わなくなった(気が付かない)ことは輸血を遅延させないメリットかもしれません。

赤血球との反応からABO型を決定できない場合、通常は唾液を用いて検査を実施しています。その理由として唾液中には多くの型物質が存在すること、また体細胞由来である唾液は、異型適合血(O型)の輸血後や造血幹細胞移植後においても本来の型物質が分泌されるためです。しかし、分泌型、非分泌型の個体ではABH分泌量が大きく異なります。従って、唾液と併用して爪のABO型判定を行うことは検査精度を上げるメリットとなります。

爪によるABO型判定・・・赤血球の吸着解離試験と同様に抗A及び抗Bで感作し、その後熱解離を行い、解離液と既知のA型、B型赤血球との反応からABO型を判定します[図.1]。使用した抗A及び抗Bは市販品モノクローナル抗体(5社)を検討しましたが、一部の抗A及び抗Bが比較的非特異反応も少なく使用可能と考えられました。爪はとくに非分泌型個体の影響が少ないため有用な試料と考えられました[図.2]。亜型では唾液中の型物質が少ないため判定保留の例も爪を用いることで証明できた例もあります[図.3]。亜型精査を血清学的に行うには、抗A及び抗Bとの反応性だけではなく、抗A1、抗Hレクチンとの反応性、吸着解離試験、糖転移酵素活性などに加え、唾液や爪を上手に活用し、トータル的に判定する必要があります。

現在では、ABO血液型判定の一助として遺伝子検査も取り入れられ、血清学で判定困難な亜型の原因解明に大きく寄与していることも事実です。しかし、輸血の現場においては血清学検査に基づいて輸血用血液製剤を選択するということは言うまでもありません。

 

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